帝国:(以下帝):本日はありがとうございます。
水下:(以下水):いえいえ。
帝:和宮で切ってからその後、こまめに髪を切りに行かれてるんですか?
水:行ってないですよ。(和宮の)前に切っただけです。
帝:髪を短くするときは演出家に断るものなんですか?
水:断りますよ。
帝:それは偶然劇場で会ったからではなくて、「必ず」ですか?
水:必ず、必ず。短くするときは、ちゃんと断りを入れて了解を取ります。
だから花組芝居の公演のときは勿論加納に断るし、事務所にも断りを入れて了解をもらってから切ります。
次の仕事の兼ね合いもあるので、調整が必要なこともありますからね。大きく見た目が変わるときは必ず
了解をもらっておかないとNGです。
帝:そうなんですか?
水:だって今の姿を見て、他の仕事が来るかも知れないんですから。
帝:大変ですね。
水:ま、(見た目が)商売道具ですからね。(髪を)赤くしたいときとかもね。
帝:染めるときも必要なんですか?
水:まあ、染めるのは簡単ですけどね。
帝:大変なんですねえ。
水:だから原川は「ひげ剃っていい?」って聞いたりしてますよ。
帝:そうなんですか。大変ですね。(こればっかり)
水:大きくですよ、大きく変えるときはね。髪形は印象が変わりますからね。いざ、仕事って時に
(イメージと)髪型が変わっていて、あれ?ってなったら周りに迷惑掛けちゃいますから。
帝:なるほど。
帝:さて、「カンパニーになる」ってどういうことでしょうか?
水:どういうこととは?
帝:八代さんのブログかな?和宮の初日前くらいに「いいカンパニーになって来た」って記載があったんですけど。
水:だから、良い集合体になったってことですよ。
帝:だったら最初から劇団でやればいいじゃないですか。努力して集合体にならなくてもいいんじゃないですか?
水:劇団はいつも同じ人じゃないですか。
帝:同じでいいじゃないですか。わざわざあっちこっち苦労して人を集めなくてもいいのでは?
水:そりゃ愉しいからですよ。
帝:愉しい?
水:でしょ?歌舞伎でこの芝居をこの役者とこの役者で観たいなって思うことがあるでしょう?
同じことをプロデューサーや演出家が、この作品はこの人とこの人とこの人でやりたいなーって思うことがあるわけですよ。
で、そのカンパニー公演が回数をこなしていけば、(出演者に)レギュラーも出来てくるでしょうから、緩やかな劇団みたいな
形にはなるんじゃないかな?
劇団っていうのは、俳優の成長も考えていかないといけないし。もちろん劇団で出来ることと、カンパニーで出来ること
というのは違うんですよ。やっぱり劇団っていうのはそこで培ってる集団の共通言語みたいなのがあるわけですよ。
クラブチームで試合をするか、代表チームで試合をするかの違いかな。
どっちが良いかっていうのは、一概に言えないですね。ブロードウェイも、カンパニー公演だけど、ロングランしていくとひとつの
劇団みたくなるじゃない?ちょっと日本におけるカンパニーっていうのとは違う気がするけどね。
帝:会社のプロジェクトチームみたいなものですか?
水:そうそう。
帝:仕事のために集まって、終わったら解散。と?
水:そうそう。カンパニーっていろんな世界の人と出会えるっていう「出会いの楽しさ」はあるよね。畑の違う人が たくさん集まって来るわけだから。
帝:プロデューサーの人は、たくさん芝居を観て、役者を知らないといけないんですね。
水:そうですねえ。
帝:和宮のときは初日から楽までずいぶん上演時間が短くなりましたね。
水:もう、台詞も転換もカット!カット!カット!でしたからね。カットっていうのは1箇所だけ削れば良いわけじゃなくて、 ここ削ったら、こっちを直してそっちを変えてっていうのが大事なんだよね。だからもっと短く出来たんじゃないのかな?
帝:上田さんとのやり取りも日によって変わってましたね。
水:変わっちゃったんだよ。
帝:「変えた」のではなく、「変わっちゃった」ですか?
水:特に変えようと思ってなかったんだけど、第1声が違ったりするとね。
帝:「春まではな」って爺に言いかけるところで、楽日が近くになって扇子を取り出してかざして台詞を言うようになりましたね。
水:そうそう、あれはね、稽古中からやろうと思ってたんですけど、でもなんか間が合わなかったんです。
で、本番に入って後半、上田さんに「やって、やってよ。なんでやらないのー」って言われて、「じゃー」と。そんな感じかな。
ほんと上田さんとはね、楽しくやらせていただけて。かわいい爺だったでしょ?
嬉しかったのはね、「(殿と爺の)会話になってて愉しい」っておっしゃっていただけたんですよ。
帝:殿って、意外と落ち着きなく、ウロウロしてますよね。動物園の熊みたい。
水:そうそう。「そんなに動かなくてもいいんじゃない?」って言われたんだけど、演出家指定ですからね。
帝:その代わりに、爺がチンと座ってる。
水:そういう関係だからね。イライラしてる殿と落ち着いてる爺だからね。
だから次の場面では、爺に言われたとおりにちゃんとやってるっぽかったでしょ。僕の(殿の)知恵袋ですからね。
実麗も言ってるじゃない、「毎日来てしょうがないんだよ」って。殿は日参しないからね。
花組芝居の役者連は臆することなく(芝居が)出来てるねって言う声もいただけましたしね。
帝:(殿、嬉しそうでございますな。)最後のひな壇は乗るの大変ですか?
水:いや、大変じゃなかったですよ。
帝:かなり高さありましたよね。
水:高い、高い。高いんだよ。
帝:高所恐怖の人はいないんですか?
水:いや、恐怖症でも頑張るんですよ。
帝:水下君は?
水:煙となんとかは高いとこが好きだから大丈夫でした。
帝: なるほど。
水:怖いのは上から降りてくる人が怖いですよね、長袴ですから。今回、怪我がなくてほんとに良かったですよ。
みんながちゃんと舞台を成立させたいっていう姿勢のある人たちばかりで、芝居が好きな人が集まってたんだよね。
八代が何かやっても「そんなの駄目だよ」じゃなくて、「じゃあ、こうしたら面白くなるんじゃない?」とか逆に言ってもらえたりしてね。
水:あ、そうそう、小川さんと誕生日同じなんだよ。
帝:あらま。
水:なぁんと森若ちゃんも同じ。
帝:あらま。
水:小川さんの出番の後が俺だからさ、出番が終わって(袖に)戻って来た小川さんに「小川さん、小川さん、いいですか?」
って言って、「俺、誕生日同じなんですよ」って言ったら、「あらそう」って、スーって行っちゃったの。
でも次の日、出番終わって戻って来た小川さんが「はっぴばすで」って言って、スーっと行ったの。かわいいでしょ。
帝:あら。
水:いいでしょー。
帝:初日から楽に至るまでに芝居がどんどん(良い方向に)変わっていきましたよね。
水:そう、それは良かった。でも、欲をいえば・・・・。
帝:初日から楽のレベルでありたい?
水:なんていうのかな、初日から裏と表(転換と芝居)もちょっと合いたかったかな。稽古日数が少ないっていうのもあるのかな。
帝:でも稽古日数が少ないと思えば、集中出来るんじゃないんですか?必死になるというか。
水:いや、長けりゃいいてもんじゃないけど、やっぱりある程度の時間は欲しいよね。装置と音と一緒にやる稽古がもう少ししたかったかな。
帝:和宮は、昼夜の間が短かったですね。
水:いやぁ。俺は長かったですよ。潤は大変だよね。顔してるときに、もう床山さんが来ちゃうし。
帝:鬘は最後ですか?
水:かぶりものが最後です。化粧して、着付けて、鬘の順です。
帝:着物は着付けてもらうんですか?
水:そうですね。舞台で綺麗に見えるように着たり、帯を締めるのは、やっぱり人に締めてもらうのが綺麗ですからね。
帝:ずーっと1日衣装は着てるんですか?
水:脱ぎますよー。1幕目の出番が2回あるから、2回目が終わったら脱ぎます。衣装汚しちゃいけないし。鬘も取ります。
帝:化粧は?
水:化粧は、取ったらまたやり直さないといけないから、顔はそのまま。
帝:目張りっていうんですか?初日からなんだか段々変わっていきましたね。
水:そう?
帝:初日頃は、くっきりパッチリ入ってたのが、楽に行くにつれてパッチリじゃなくなってきてるなあと・・・。 は!まさか楽に行くにつれて墨が減ってきたから節約したとかですか?
水:ばれたか。
帝:えええええ、そうなんですかっ!?
水:てことはないですが。
帝:・・・え?
水:毎日描いてて慣れたんじゃないですか?
帝:楽に向けて若くなっていった気がしましたけど、意識して若くされたんですか?
水:意識はしてないですけど、声が高くなったりしたのかな?若く見えるのは、ビンのせいだと思いますけどね。
帝:そうなんですか?
水:まあ、若狭守は30代ですからね。
帝:爺にギュッと尻尾つかまれてる30代。
水:そう。
帝:芝居を毎日やってるとルーチンワークみたいな感じになりますか?
水:んー。体は楽だよね。でも毎日一生懸命ですよ。「舞台上で気を抜かないで居られるか」ですからね。それは上演日数が短くても長くても同じですよ。
帝:客席がザワザワしてるのは気になりますか?
水:しょうがないんじゃないですか?商業演劇ですから。
帝:携帯鳴ってましたねえ。
水:もうねえ。あ、また鳴ってるな、ってね。気にしてたら駄目ですからね。それこそなんか「おや?不思議な音が」って言えるくらいのが面白いよね。
「爺、なんか音がしておるぞ。静かにさせい」って言えたらね、面白かったかもしれないね。
帝:今では着物は着慣れましたか?
水:最初はぜんぜん着られなかったからねえ。着慣れたっていう風には見てもらえるみたいですよ。
帝:そういえば、今回は、小道具は壊さなかったんですか?
水:壊すほどないです。
帝:なんで家の中で刀を振り回してたんですか?
水:鬱屈してたんじゃない?
帝:あれは、花組芝居の公演から変わりませんでしたね。
水:花組芝居のはギャグにしてたけどね。
帝:今回みたいに受けてくれる人がいる芝居って珍しいですね。
水:いつも受けてもらってますよ?
帝:いえ、花組芝居だといつも受ける立場が多いですよね?
水:まあねえ。
帝:以前、※1奥女中のときに、やっぱり水下さんが受けとめる感じに見えましたけども。
水:それは、姉妹ってそういうもんだからじゃない?やんちゃな妹、しっかり者の姉とかあるじゃない。そのときの俺がそういう風に台本を読んでたってことなんじゃない? 基本的に立ち役は受けが多いしね。
帝:そうなんですか?
水:年も重ねて来てるしねえ。それで変わって来てるんじゃない?あとやっぱり演出をするようになって、視野が広がって来たのかもしれない。その頃から変わってきたねって言われることが多くなってきたから。
帝:自分で意識して変えて行こうっていうのはあるんですか?
水:いや、意識して変えてるわけじゃなくて、自分の居場所っていうか、演出家に任せてもいいんだとか、そういうことが解って来たっていうのはあるかもしれないね。
無理なく力が抜けていったっていうことなんじゃないかな?力が入らずに立てるっていうことかな?
帝:『ドアをあけると・・・』(以下『ドア』)ですが、いきなり若狭守から殺し屋ジュリアンですか?
水:素敵でしょ?
帝:それぞれのあだ名は決まったんですか?
水:んー、まあ、自然に呼び名は収まるんじゃないですか?
帝:(男チームで)一番年寄りでちびですか。
水:ああ、ちびって呼んでもらおうかな。
帝:今回の公演は皆さん初共演ですか?
水:俺はね。まるっきり面識がないのは、郷本くんかな? でもね、面白いのは、岡本麻耶さんは、※2サクラ大戦(ミュージカル)に出てたんだって。で、それに玉ちゃん(弾丸レギュラー玉置さん)が出てたじゃない。 で、郷本くんは、※3テニスの王子様に出てて、「ああ、玉置先生知ってます」ってなって、あらー、ここにも意外なつながりが!・・・って感じかな? みんな年が近いし、6人しかいないんでね。やな奴いないし。やりやすいんじゃないかなー。
帝:世代的な共通言語とかあるんですか?
水:まあ、浅間山荘をリアルでテレビで知ってるのは、円城寺さんと俺で。
帝:浅間山荘ですか・・・
水:大体半周りくらいの年齢幅がグシャーっと集まってるわけですよ。良いものを作るために、惜しみなく努力を払うために。
帝:本読みは、基本的に全員揃ってやるものなんですか?ブログの紹介記事でみなさん揃ってましたよね?
水:全員です。
帝:いついつまで本読みをしますってスケジュールが決まってるんですか?
水:それは行ったときの(現場の)状態にもよりますよ。大体台詞も入って、本を離してもいけるなと思ったら、立ち稽古に入る。
帝:立ち稽古に入ったら、自分の出番のお稽古だけ出ればいいんですか?
水:それはカンパニーや劇団によって違いますよ。『和宮様御留』のときは、自分の出番の所だけ来てお稽古してましたね。自分の前の状況によって、お稽古の開始時間が前後するから、 ある程度早めに行くようにしてましたけど。
帝:花組芝居は?
水:基本的に毎日。日によっては、パート稽古みたいなときもありますけど。
帝:パート稽古で自分の出番じゃないときも行かないといけないんですか?。
水:絶対来なくちゃ駄目とかないですけど、作り物とかあるから自分の稽古じゃない日でも大体揃ってるかな?
帝:今回の『ドア』は毎日行かれてるんですか?
水:始まったばかりですからね。明日は自分の出番じゃない稽古だから「ゆっくり来てもいいですよ」って言ってもらえてるんで、ゆっくり行こうかなと思いますけど、愉しいですから。初めてやる演出家さんだし、どういう風に芝居を作るのか勉強になるので。
帝:結構、本は改訂されてるんですか?ブログで本が毎日のように変わるって書いてありましたね。
水:削ったり、言いにくい所を言い換えたりっていう作業を演出家がしてくれてますよ。
帝:台詞の増減って嬉しいとかあるんですか?
水:嬉しいってのはどうかな?楽なのは減る方だよね。覚えなくていいから。
帝:そうですか。楽なのか。『ドア』簡単なあらすじ教えて下さい。
水:人が過去に行く話なんです。それぞれの登場人物が行ける過去(時代)は決まっていて、過去の過去には行けなくて、自分の現在には戻れるけど、過去の人は未来には行けないんですよ。
帝:????
水:自分の終末のときを迎えて、過去を悔い改めたい男がいて、その男に巻き込まれた娼婦がアララ?
帝:アラララ?
水:過去をいじってしまうので、結末の未来が芝居冒頭の未来の場面と違っちゃうんですよ。
帝:歴史に干渉してはいけないという原則を無視した話ですね。
水:そういう話です。そうね、女の奔放さっていうかね、未来が変わるっていうか、変わった歴史が本当の歴史になるっていうのかな?
帝:・・・混乱しそうですね。役の年齢も場面によって変わりますよね?若くなったり年をとったり。
水:そうね。
帝:年齢差を出すのって何か工夫するんですか?
水:んー。白髪をつけるとかその程度かな?そんな極端に変わらないですよ。40代と60代の役ですから。 年を取ったんだなってことが分かればいいんですよ。
帝:見た目が?
水:そう。だって鬘かぶって白髪頭になってるのを観たら、あ、年取ったんだな、って思うでしょ?年を取ったからって、いきなり背中丸めてヨボヨボって変でしょ?そんなに年を取るわけじゃないですから。 40代と60代なんてそんなに変わらないですよ。
帝:そうですか。
水:多少話し方がゆっくりになったりとかはあるかもしれないけど、設定や状況で役の年齢が変わったんだっていうことを説明してるからね。あんまり意識しないですよ。
帝:現代劇のお化粧ってどんななんですか?
水:しないでしょ、あまり。
帝:あらそうなんですか?
水:塗るとしても軽ーくファンデーションくらいでしょ。ピピピっと。今回は多分メイクしないでしょ。
帝:すっぴんですか?
水:すっぴんでもいいんじゃないですか?
帝:チラシの撮影は?
水:何も塗ってないですよ。
帝:(『ドア』の)筋書用の写真撮影のときは?
水:何も塗ってないですよ。ディノス(大人の隠れ家)のときみたいにライトを使用するときは、ちゃんとメイクしないと駄目ですけど。(メイクしないと)ライトの当たり方が均一にならないし、顔がテカっちゃったりするから。
帝:ファンデーションって普通の市販の女性が使うものと同じなんですか?
水:ああ、それを使ってる人もいますよ。でも肌の色が(男女は)違うからねえ。
帝:若狭守は砥の粉だったんですか?
水:あれは、ファンデーション。フェイスケーキっていう舞台用のです。若狭守のときは、暗めの色と明るめの色と二色を併せてました。ファンデーションって混ぜられるからさ。
帝:はあ、そうなんですか?
水:楽よーっ。落ちるのも早いし。
ファンデーションが良いのはね、直しがきくんですよ。おしろいってびんつけ油っていう下地をつけるんだけど、びんつけ塗って、おしろい塗って、さて、目の周りの化粧をしたら失敗しちゃったとするじゃない?そこの部分だけ落として直すっていうのは難しいんだよ。塗り直すと汚くなっちゃうからね。だから全部落とさないと駄目になっちゃう。でもファンデーションはそこだけ(直したい部分だけ)落とせばいいんでね。
帝:え?
水:もう、楽でいい。あいらぶぱんけーき 合う、合わないっていうのもあるしね、化粧品は。
びんつけって(成分が)強いんだよ。だから塗ると顔が赤くなったりする。大事なのは、ちゃんと落とすことね。(芝居が)終わった後はちょっと残ってても、帰宅したらちゃんと丁寧に落とす。で、化粧水もつけて、ちゃんと睡眠をとる。
帝:ファンデーションって白塗り用ってあるんですか?
水:あるけど、おしろいの白とは違う感じがする。
(今回は)男は化粧しないんじゃない?ああ、でもしわ描いたりするから、ファンデーションくらいは使うかな?何も塗ってないとこにしわだけ描くと浮くからね。
帝:では、素顔に近い水下さんが観られると。
水:そうですね。
帝:翻訳劇って、言葉は日本語ですが、お芝居は外国の世界ですよね。文化とか歴史とか匂いとかそういう成立世界の空気を出そうという努力はするんですか?
水:しないっ。(きっぱり)
帝:でもおもいきり日本人じゃないですよね?役、ジュリアンですよね?
水:だからジュリアンていう人間であればいいわけでしょ?ジュリアンっていうあだ名でもいいし。俺はジュリアンだからって大げさなジェスチャーでステレオタイプの「外人」しても仕方ないでしょ?日本人なんだから。 酒井若狭守もジュリアンも同じ「人間」であればいいわけですよ。外人の雰囲気なんて(俺には)ないんだから。日本人なんだから。あとは日本人じゃない設定だっていうことを(お客様に)分かってもらえればいいわけで。蜷川さんや花組芝居みたいに、世界を日本に置き換えてもいいんだよ。でもそうすると土地の設定も全部日本に変えないといけないけどね。 で、話に盛り込まれてる文化とか背景を(役者の側が)解ってやってると良いんですよ。でも人種差別とか麻薬、ゲイとか日本では日常的にないから理解しにくいよね。イギリスは階級が難しいよね。常に階級っていうのがついて回る世界なんだなって思いますね。移民の問題とかね。アメリカだと、人種差別やゲイとかかな。
帝:日常。ですか?
水:だって麻薬なんて学校で捕まる奴がいて、それはお酒を飲んで捕まるのと同じ感覚だもの。いきなり隣の人が暴れだしても「ああ、麻薬やってる奴は大変だよね」って暗黙のうちに分かるんだよ、奴らは。誰もが1回は煙草を吸うように大麻をやってるかもしれないのが普通の世界っていうのは日本にはないからね。 俺がジュリアンって呼ばれることに(お客様に)最初違和感があってもしょうがないよね。大事なのは、芝居が進行していくにつれて、違和感が抜けて行くこと。だって、変でしょう?「おおううっ」て、オーバーアクションしても、ギャグになっちゃう。つけ鼻なんて変でしょ?ギャグにしておいて、そのうち、しみじみ出来るならいいけどね。
帝:日本だとかイギリスだとか場所限定ではなくて、「どこかの国の人間の話」ですか?
水:そう。台詞の中に「ビッグベンが」って出てくるから、ああ、ロンドンだな、日本じゃないんだなってことが分かるけど、どこの国か無理に意識しないですよ。それより、人間としての意識とか人間の気持ちのひだ、葛藤を克明に描いていく、演じるってことが大事なんだと思います。
帝:台詞は現代語というか。日常使ってる言葉ですか?
水:現代劇だからね。現代語ですよ。翻訳劇の難しさっていうのは、語順の並びの違いや、関係代名詞の訳とか、翻訳の仕方だと思いますね。その国の持ってる言葉のリズムが変わるからね。
翻訳する人が学者さんだったりすると、やっぱりちょっと違うなあ、この言い方はしないなあ、っていうのはあるよね。もちろん訳としては正しいんだけど。
難しいのは日本人に分からない言い回しをどうするか?だよね。言い回しにまつわる歴史なんて知らないからね。あと、説明が多くなるんだよ。次の場面のために今の状況を説明してる台詞が多くなるので、その説明の台詞をどうするかっていうのは難しいですね。
そのまま訳しても伝わらないものがいっぱいあるじゃない。イメージなんかさあ、ナイチンゲールが鳴いてるって言われても僕らには声の綺麗な鳥ってイメージに直結しないじゃない。
鏡花の世界を現代語の言いやすい言葉にしちゃうと、鏡花の世界が変わってしまって、日本語の美しい音韻が損なわれちゃうでしょ?母国語じゃない世界の人間がやるんだから、その気持ちをどこまで表現出来るかになっちゃうと思うんだよね。人間の機微ってものがね。
帝:殺し屋さんは道具は何かお持ちですか?
水:持ちません。殺す場面ないですから。自分としてはステレオタイプにはなりたくないけど、怖い人、不気味な人なんだなってとこを出したいですね。
帝:衣装はスーツですか?
水:はい、色はまだわかりません。かっこ良く着こなしたいですね。楽しみにしててください。
帝:「スリラーコメディ」ですか?
水:スリラーではないなあ。コメディでもないと思うよ、日本人の感覚には。欧米人が観たらコメディなんだろうけど。
喜劇じゃないからね。日本の喜劇って(欧米のものとは)ちょっと違うんじゃないかなあ。
『ドア』は、日常のずれっていう部分に可笑し味があるわけで、あからさまにコメディとしてやってもダメだと思うんだよね。受け答えの会話のずれが面白いわけだからね。
ルーシーショーみたいに大げさに「わっかあんなあああい」って台詞じゃなくて、大げさな身振り手振りでやるより、「え?わかんない」ってはっきり言っていいと思うんだよね。そういう会話のずれの可笑し味を大事にしたいんだよ。
滑稽ではあるけど。
話自体はファンタジーだって思うんですよ。女の友情と馬鹿馬鹿しさとが出ればいいなあって思ってます。
自分で本を読んだときに、ありえないけど「ああ、いいなあ」って思ったからね。その気持ちを伝えたいかな?
帝:『ドア』の舞台装置はどんななんですか?
水:それは楽しみにしててください。
帝:今回も盆が回るとかですか?
水:いえいえ。ただ、場面展開上の時間が移動するとかそういう芝居の約束事をお客様に伝えられるようにしないといけないっていうのはあるよね。
帝:約束事とは?
水:たとえば、能だと、クルッと回ると山を一山越えましたっていうのがお約束じゃない。そういうルールをね、伝えないといけないんです。「あ、時代が変わったんだな」っていうのを解ってもらえれば。約束ごとがある舞台の面白さっていうのがありますから。
帝:時代や人物が行ったり来たりするっていうことは、気を抜くと目の前の人はどの時代の誰っていうのが解らなくなりそうですね。
水:まあね。その目の前にいるのが誰っていうのが分かってもらえるようにするのが大事だよね。本を読んでおいてもらったらそれは分かりやすいかもしれないけど、読んでなくても分かってもらえるようにしないと。だって、舞台っていうのは、読み落としたから前の場面をもう1度っていうのは出来ないじゃない。客席を混乱させてもいいんだけど、混乱させたら解読も出来るようにしてあげないとね。それを今、一生懸命やってるわけですよ。
帝:自分の中で、演出家の自分の部分と、実際の演出家が言う部分と対立したりしないんですか?
水:しないしない。こういうことを言ってるんだなっていうのが解るし、解らなかったら聞く。こういうことですか?って。自分の思ってることじゃなくて、演出家が何を言いたいのか、何を指示したいのかっていうのを理解しないと。
俳優として思ったことを言いたいな。後から言うより、解ってるならそのとき言うほうがいいと思う。遠慮しないで言おうとは思っているけどね。役者に対して演出家が言ってるのは、こういうことなんじゃない?って。言い過ぎてうざったいって思われてもいいから言おうと。誰かが気がついたことを終わってからこうだったんじゃない?って言われるより、今、言ってもらう方がいいと思うんだよね。出番少ないしねー。
帝:え。
水:男チームの中で一番少ないんじゃないかな?
帝:そうなんですか(><)
水:聞いてくれる、聞けるっていう現場っていうのは大事なんだよね。駄目だよって言われたら何が駄目なのか?って聞けないと。聞かれたらここが駄目なんだよって言ってくれないと。出来ると思うんだよね。
帝:なるほど。どのくらいコミュニケーションが取れてたかっていう結果は初日に出るんですね。
水:全体のコミュニケーションが取れてるのも大事だけど、一番大事なのは、舞台が出来上がってることだから。仲良くても芝居が出来てないと駄目なんですよ。もう舞台が終わったらフンッてお互いそっぽ向くくらい険悪でも、舞台が良ければそれはそれでいいんですよ。まあ、仲が良い方がいいんでしょうけどね。まとまりがある方が良いわけだから。 いろいろな人がいればいるほど、どれだけ作り上げることに集中出来てるかっていうのが大事なんですよ。 人がいるから意見があるわけだから。それが出せないと駄目なんだよ。意見が言えない組織っていうのは駄目でしょ?会社でも。
帝:そうですね。
水:意見を言える現場でありたい。それをまとめるのは演出家の仕事ね。演出家がまとめてくれるっていう信頼感がある現場です。もうねえ、裸になれって言われれば、はいはいって脱げる。で、脱いだよ、どうしたいの?って聞いちゃう。
帝:それは水下さん以外の人も?
水:そう。みんな「ほら、カードを全部広げました」って見せるわけよ。演出家にも役者同士でも。で、「さあ、見てちょうだい。私は全部広げたわよ、あなたはどう見てくれるの?」って。
帝:何でカードを広げちゃうんですか?
水:お互いを知りたいから。何が出来るのか、どう出来るのか、持ってるカードを見せてくれないと分からないでしょ?カードを広げたら、広げたカードについて質問が来るわけですよ。で、聞かれたら素直にこうだよって素直に言いたいと思ってるんですよ、みんな。
本当はもっと広げられるのに、広げてない人もいるかもしれない。それはわざと広げてないのかも知れないし、広げられないのかも知れない。で、演出家が広げてない役者に「ほら、あなたはまだ見せてないカードがあるでしょ?」って言うと、「ああ、この人は私を見てくれてるんだ」って嬉しくなるんですよ。「自分の気がつかないカードもちゃんと見てくれた」って。
帝:水下きよしはカードを広げられてるんですか?
水:なってきたんだよ。それが芝居が変わって来たって言ってもらえることなのかも知れないね。カード広げるのは愉しいからもっともっと広げたくなっちゃう。
帝:もし、広げてるつもりなのに、自分で気がつけなくて広げられてなかったら、広げてないって言われたいですか?
水:言って欲しいし、言いたい。言って、(言われた相手が)へこんじゃったらその時はその時で、その時にまた対処するから。
帝:よく「あとは演出家に任せるだけ」っておっしゃいますね。もう最初から全部お任せ?
水:俺はこうだと思ってやってるんだよっていうことを全部やる。と、だったらこういう方が良いんじゃない?って演出家が言えるじゃない。そこからお互いに話をしていく。
帝:いわゆる指示待ちってことではないんですね?
水:ないないない。そんなの駄目ですよ。自分が出来ること、思うことを「こう!」って出さなくちゃ。じゃないと(演出家も)指示が出せないでしょ?本に書いてあることはやってみないと。
そりゃ、最初からいきなりは出来ないですよ。絵を描けって言われて、どう描くんですか?って聞いて、見たままを描けって言われて、え?見たままってどうやって?ってドンドン聞いていけばいいんですよ。それが経験になっていくわけだから。
帝:なるほど。家でお稽古ってするんですか?
水:お稽古っていうか、本は読み込むよね。読めば、ああ、こういう気持ちなのかなっていうのが入ってくるからね。読み込めば、頭に入るから、ふと思いついたりするじゃない。ずーっと頭のどこかに抱えてるからね。で、声に出したときに、「あ」って感じることがあるわけだよ。「あ、ここで気がついたから振り向くんだ」っていう段取りがスッと入ってくる。稽古場に行ってやってみて「あれ?」ってこともあるけどね。
でも台詞を覚えるってのが、一番最初だけどね。
台詞が入ってれば、段取りの工夫が出来るから。言いながら動くと、ああ、こっちの動きのほうが良いなっていうのが分かって来るから演出家も詰めやすくなるし、台詞が入ってないと「動け」って言われても動きと台詞がバラバラになっちゃうからね。
会社の会議やプレゼンをするとき、前もって資料を作るじゃない?で、その作ってきたものを事前に上司や同僚に見てもらうと、これじゃ分かりにくいからここを直してくれって話し合えるでしょ?出来てもいないものは直しようがないでしょ?その作る努力をどこまでやるかですよ。
今日は本を持ちながら動いても、明日は本を離して動いてくださいってなって。台詞が入ってると演技も落ち着いてくるんですよ。で、やっと、そこからこうやったほうが良い、ああやったほうが良いって言えることが出てくるんですよ。
帝:今年、良い出会いが続きますね。
水:※4勇太もそうだし。あいつと出会えて、もう毎日ビビッドに芝居が出来て愉しかったしね。あいつが新潟でダンサーになったんですけど、千葉の高校演劇では有名な子だったんだよ。その勇太が俺と一緒で面白かったって言ってくれたのは嬉しかったなあ。 若い人を観ると「ああ、こんなやり方もあるんだって」知ることが出来ていいよね。
帝:そうなんですか?(こればっかり)
水:彼と出会えてすごく素敵だったなあって思いますね。久里子さんとも再会出来たし、ぴーさんや小川さんと出会えたし。今回のメンバーもだし。とってもとっても今年は素敵な出会いに恵まれてるなあって思いますね。 加納と一緒にやっていて、そこで獲得したものを外で千夏とやってみて、「こうかな?」って実験してみることが出来る。ドンドンそうやって、話し合って、みんなのドアがあくと良いんじゃないかなー。
帝:水下さんのドアはどんな風に開くんですか?
水:それは是非観にいらしてください。
文責 すがい。
| ドアをあけると・・・ | 2006年7月28日〜8月6日 | 於:シアターVアカサカ |
| 百鬼夜行抄2 | 2006年9月1日〜9月10日 | 於:銀座博品館劇場 |
| 同上 神戸公演 | 2006年9月16日〜9月17日 | 於:神戸オリエンタル劇場 |
| ※1奥女中 | 花組芝居公演 奥女中たち 1999年6月24日(木)〜7月18日(日)於:下北沢ザ・スズナリ |
| ※2サクラ大戦ミュージカル | 同名ゲームの舞台版。 |
| ※3テニスの王子様 | 少年誌掲載の人気漫画の舞台化 |
| ※4勇太 | 石川勇太 2006年1月のうさぎ庵公演「よいことわるいこと」にて共演 |
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